株式会社エルム 代表取締役 宮原隆和氏

掲載号:「中小企業かごしま」2010年8月号掲載

鹿児島から世界を相手に!ものづくりエンジニアの夢

「自動光ディスク修復装置」の市場で世界的シェアを誇る株式会社エルム。修復スピードと安定した平面修復技術が国内外で高く評価され、日本、韓国、スペイン、米国のパートナーと販売代理店契約を締結し、グローバル・アライアンスにより、世界36ヶ国へ販売網を拡大、世界の全自動光ディスク修復装置市場においてシェア85%強を占め、毎日20万枚以上のディスクが修理されている。 今回は、「ものづくり中小企業製品開発等支援補助金 試作開発等支援事業」にも採択された、南さつま市から世界に羽ばたく株式会社エルムの宮原隆和代表取締役にお話しを伺った。

地元に就職する会社がないなら、会社を設立しよう

大阪の大学を卒業後、コンデンサーメーカーに就職。それから6年後の29歳の時、故郷の南さつま(当時の加世田市)で仕事をしたいとの想いからUターンしました。大阪で学んだ電子回路の技術を生かせる会社を探しましたが見つからず、結局大阪の電気会社を退職し一足先にUターンしていた弟と共同で会社を設立することにしました。

鹿児島は農業立県。地元資本で「ものづくり」をする産業といえば食品産業ぐらいしか見当たらず、工場も立地はしていましたが、ほとんどは県が誘致した県外資本の工場。裏を返せば、鹿児島には自社で生み出した独自性の高い工業製品を製造する会社が少ない。「鹿児島から世界の先進国に、先端技術を使った鹿児島生まれの工業製品を送り出す会社をつくってみよう」との愛郷心に?き立てられました。

我が社の経営理念

そうして昭和55年に、弟と共同で現在の会社であるエルムを設立しました。エルムの経営理念は明快です。

  1. 下請けはしない
  2. 一流の技術者に一流の仕事をできる場を与える
  3. 鹿児島から世界を相手にする

社員には「プロなら仕事は趣味でやるな。お客の立場に立った商品開発をやりなさい」と言っています。一流のお客様のニーズに応えることが、ワールドスタンダードで一流の製品を生み出す秘訣です。

鹿児島の一流 農工連携へ向けて

会社設立2年後にはパソコンを利用した「気象衛星ひまわり受像装置」を開発、当時大手電機メーカーしか作っていなかったハイテク装置を、わずか数人規模の会社が開発してしまい関係者も驚いていました。

その後もいろいろな商品を開発しましたが、鹿児島の企業として、他社にはない一流のものを作ろうと思い、鹿児島の一流である「農業」に眼を向け、農工連携に取り組みました。農工連携の草分けとして最初に手がけた仕事は、昭和65年に地元の特産品であるキンカンをネット包装する機械でした。その後も農産物の自動選別機や量産タイプの汎用型自動ネット包装機、「全国中堅・中小企業新機械開発賞」を受賞した害虫計数装置等を製品化しています。

農工連携とは結局、異業種交流と同じことです。交流会で開発のヒントはいくらでも得られます。ただ留意すべきことは、いかに一流の顧客要望に応えるようにするかということです。それを考えることが一流の製品を作るポイントになります。

ヒントは足元に転がっている

わが社では、農工連携に関する製品以外にも、世界シェア85%以上を誇る「自動光ディスク修復装置」をはじめとする多くの製品を開発しています。「自動光ディスク修復装置」を開発するきっかけとなったのは、ある光ディスク修復業者から業務用光ディスク修復装置の開発依頼があり、ビデオレンタルのメディアが近い将来、ビデオからDVDに置き換わるだろうと予測したことからでした。貸し出すDVDは傷つくはずであり、いずれこの傷を修復する装置が必要になると思ったわけです。

また、趣味である家庭菜園にて水撒きをしていたある日、誤って踏んでしまったホースの先端から飛び出す水を見て、これだと思い、光ディスク洗浄器の製品化を思いつきました。このように、発明のヒントは身近なところに転がっています。しかし、それを具体的に製品化に結びつけるまでには大変な作業になります。

日本はもっと「ものづくり」に光を当てるべき

鹿児島の経済は、全体的に下請経済から脱却する必要があると感じています。下請けをしている限り不況を親元からもらってしまう現状は拭いきれない。鹿児島にはいい素材がたくさんある。これら素材を活用し、もっと付加価値を高める仕事をしてほしいです。

併せて、日本経済の将来に、大きな不安を感じています。政治にはもっとしっかりとした対策を講じてほしい。先日韓国へ行ったらすごい勢いで経済が発展している。このままでは日本経済は、世界経済から取り残されていく気がします。真剣に取り組まなければならない時期にきています。

また、私自身、日本の「ものづくり」に危機感を抱いています。その一番の理由は、「ものづくり」に携わる人達を日陰者にしてきたことです。日本の発展を支えてきたのは「ものづくり」の人達なのに、そうではない人達がはるかに高い給料を貰っている。このままでは優秀な人間の多くが「ものづくり」を敬遠するようになります。アメリカの大学を出た学生で最も初任給が高いのはエンジニアです。日本はもっと「ものづくり」に光をあてることが必要だと痛感しています。

これからもいろいろな分野の製品開発を試みたいと思っています。特に現代のキーワードである「少子高齢化」、「CO2削減」に関する新製品開発に力を入れていきたい。社員には、井の中の蛙にならず、もっと外に目を向けるように言っています。会社内部で思考錯誤するだけでなく、社会は何を求めているのか、お客様は何を欲しがっているのか、そのニーズを取り入れるには、外の空気をたくさん吸わなければなりませんから。
「前例がないからやらない」では、人の後追いしかできせん。「前例がないからやる」からイノベータになれ、市場のリーダーになれるのです。これからも鹿児島の一企業として、世界を相手に頑張っていきたいと思います。

概要

鹿児島県南さつま市加世田武田15248-11
TEL 0993-53-6930 FAX 0993-53-7160
設立 昭和55年12月

                 
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